xTechの文脈においてリーガルテックは以前にも増して重要な位置を占めています。リーガルテクノロジーは、伝統的に業務管理、文書保管、課金、会計、電子情報開示で法律事務所を支援するための技術やソフトウェア、アプリケーションなどの総称です。リーガルテックによって法律に関する電子情報を取り扱うサービスから、近年はより高度な情報処理を活用するものまで幅広いアプリケーションが開発されています(AIを活用したフォレンジックや紛争調停など)。本稿ではその中から法的文書の作成や実行をブロックチェーン上で行うOpenLawとブロックチェーン基盤をSaaSとして提供するkaleidoをご紹介します。チュートリアルもやっています。

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  • リーガルテックの現況
  • OpenLawとは
  • OpenLaw on kalendo
  • まとめ

リーガルテックの現況

日本国におけるリーガルテックの主要サービスは主に弁護士の法律相談やマッチングサイト、または法律文書の作成サービスなど従来の法律事務における作業の効率化にその多くが留まっています。訴訟や裁判における証拠の捜査に対するAIの活用や、法律の執行やそれに伴う権限の譲渡をスマートコントラクトで実行することはまだ広く浸透していません(サービスは既に存在しています)。Web3.0の到来を考えた場合、例えば裁判において分散型に保管された判例などの各種データとスマートデバイスから自動的に収集し、フォレンジック調査した証拠を照らし合わせてディープラーニングや機械学習による分析から基準となる判決を導き出す、というようなことは行えそうです(当然実世界でその適用を行えるかということは別問題ですが)。

デジタルリーガルプラットフォームを提供するRocket Lawyerは、ブロックチェーンを用いた法的契約の自動執行に関してConsensysと協業する旨を発表しました。Rocket Lawyerは、スマートコントラクトを活用するためのステーブルコインか同様のパススルー・トークンを2020年早々にローンチする予定です。例えば車を購入したい場合、Rocket Lawyerを介して契約が作成され、特定の契約条件が満たされていることを条件に、エスクローで資金をリリースできるようになります。この条件の確認や実行を仲介するために従来の契約処理は必要なくなります。このRocket Lawyerサービスのスマートコントラクト部分にブロックチェーンベースのプロトコルであるOpenLawが採用されています。

Rocket Lawyerのようなサービスはその地域や国においての社会慣習上、社会通念上適当かという問題があるため一概には言えないのですが、昨今の情報技術の活用において日本が後進していることは否めないのではないでしょうか。[1]

日本では昨年2018年10月22日に一般社団法人LegalTech協会が発足し、いままさに動きが加速している段階であるといえます。[2]

Rocket Lawyer To Formally Launch 'Stablecoin' For Smart Contracts By Early 2020

本稿ではブロックチェーンの社会実装を進めるConsensysが提供するブロックチェーンで法律契約の作成や執行を行うプロトコルであるOpenLawのご紹介とチュートリアル、またSaaS上でブロックチェーン基盤を構築できるkaleidoを組み合わせたサンプルを見てみたいと思います。

OpenLawとは

OpenLawは法的契約の作成と実行のためのブロックチェーンベースのプロトコルです。OpenLawによって従来の法的契約とブロックチェーンベースのスマートコントラクトをユーザーフレンドリー(マークアップ言語を使用)かつ法的に準拠した方法で結び付けることができるようになります。 OpenLawを使用することで、ユーザーは次世代のブロックチェーンベースのスマートコントラクトを活用しながら、安全な方法で法的契約にデジタル署名と契約の保存ができます。

通常契約文書は作成された後に契約者間で文書をレビューおよび修正する必要があります。契約書を受け取った契約者は捺印や署名を行い、契約書が返送されて契約が履行されるという流れ、という理解です。OpenLawは契約文書の作成からそのやり取りや署名を効率的に行うことができます。

昨今では契約やNDAのやり取りは電子メールを利用し、署名にはクラウドサインやDocusignなど電子署名を利用するケースも多くなってきました。しかし電子メールへの契約書の添付、クラウドストレージへの文書保管、サードパーティーの署名ソフトの使用は情報漏洩やセキュリティの観点から問題視されるケースがあります。OpenLawはブロックチェーンを活用することでこれらの問題へ対処しています。

  • 文書の自動化および契約実行の自動化よって法的契約に関する時間とお金を節約できます
  • 契約の状態とその電子署名はEthereumブロックチェーン上に保管されます(パブリック、プライベート型など選択可)

OpenLawにサインアップすることで、プライベートインスタンスをリクエストできます。プライベートインスタンスではプライベートデータベース上にテンプレートやユーザ、コントラクトおよびデータを保管しておくことができます。もう1つの選択がセルフホスト型で、ブロックチェーンのSaaSサービスであるkaleidoへホスティングする方法です。この方法は本稿の後半で試しています。

OpenLawにサインアップしてチュートリアルを行いました。チュートリアルではOpenLawのマークアップ言語を使用して法的契約の文書を作成します。テンプレートを記述すると文書へ署名するためにドラフトが各関係者へ送られ、電子署名の状態や契約(スマートコントラクト)がEthereumブロックチェーンへ記録される、という仕組みになっています。OpenLawチュートリアルへ入る前にいくつか前提条件を確認してください(Ethereumに関するツールの知識が必要と書かれています)。[3]

OpenLaw Tutorial: Blockchain-Enabled, Legally Enforceable Smart Contracts

  1. OpenLawアカウント、OpenLaw.ioから作成可能
  2. Solidityを使用したスマートコントラクトの開発経験
  3. スマートコントラクト開発ツール MetaMask Mist Wallet およびローカルとリモート(Remix)での開発に対する理解

以下の画面からサインアップできます。

OpenLaw Account registration

サインイン後の画面です。

OpenLaw Signup

チュートリアルのすべてはご紹介しませんが、一部だけ記載します。チュートリアルではバイヤーがフォルクスワーゲンの車を200 etherでセラーから購入する際の契約文書を作成します。

OpenLawのマークアップ手法に沿って作成したドラフトの契約文書ができました。文書名だけ『CAR SALE AGREEMENT』へ変更しています(画面に遷移するには左上のメニュー View:で Draftを選択してください)。

CAR SALE AGREEMENT

バイヤーやセラーの情報を埋めた後『Send Contract』を押下してドラフトの契約文書を送付することができるようになります(メールアドレスはSELLER/BUYER両方有効なものが必要です)。

OpwnLawにログインしている場合は、送付された契約文書へ電子署名する画面へ自動的に遷移します。またOpenLawへサインアップしていないアカウントの場合も、記載したメールアドレスへ契約書本文を添付したメールが送られてくるようになっています。

Review and Sign Agreement
E-mail notification

双方が署名すると契約書が署名のリンク付きのpdfファイルで送られてきました。大変便利なシステムです。

Agreement was sent automatically !!

本稿では詳細を取り上げませんが、OpenLawのマークアップからEthereumブロックチェーン上のスマートコントラクトを呼び出して ether やデジタルアセットを取り扱うことができます。チュートリアルにはOpenLawの署名がなされた際にEthereumスマートコントラクトのメソッドを呼び出して、移転の情報を記録するコードがあります(Solidityで書かれています)。 confirmReceipt というメソッドをバイヤーが呼び出すと支払いが完了でき、契約執行までブロックチェーンのメソッド呼び出しで行えるようになっています。

contract BillOfSale {
address public seller;
address public buyer;
string public descr;
uint public price;
    function recordContract(string _descr, uint _price, address _seller, address _buyer) public {
descr = _descr;
price = _price;
seller = _seller;
buyer = _buyer;
}
    function() payable {}
    function confirmReceipt() {
require(msg.sender == buyer, "only buyer can confirm");
require(this.balance == price, "purchase price must be funded");
seller.transfer(address(this).balance);
}
}

OpenLawビギナーズガイドはより広範囲の内容をカバーしているため一読をおすすめします。[4]

OpenLaw on kaleido

パブリックな用途であればOpenLaw.ioのサービスで十分ですが、プライベートな用途やコンソーシアム型での利用、例えば特定の企業間や法律事務所間のやり取りでブロックチェーンを適用したいといったユースケースにおいてkaleidoのようなエンタープライズ向けBaaS(Blockchain-as-a-Service)を利用することが検討できます。

kaleidoはマルチクラウドなフルスタックでオールインワンのEthereumブロックチェーン環境を提供するSaaSです。REST APIのサポートやサードパーティーツールの統合は簡単で、既存のBaaS(Blockchain-as-a-service)と比べ広範囲なサービスを提供しています。

kaleidoのアカウントを持っている場合は、kaleidoのダッシュボードからOpenlawを追加します。以下のURLからでも同様にkaleidoのアカウント作成やOpenlawの追加へ進めます。

https://marketplace.kaleido.io/integration/openlaw/

Click on Use on Kaleido

ノードやサービスが立ち上がったら、メンバーサービス『OpenLaw-Kaleido-openlaw』をクリックしてください(細かい手順は割愛しています)。

Kaleido Environment Dashboard

Applicaion Credentialを作成します。クレデンシャル名(任意)を入力して『GENERATE NEW』をクリックします。OPENLAW UIをローンチできるようになります。

Create an application credential

OpenLaw UIはOpenLaw.ioのUIと同じものですが作成したものは独自にkaleidoで立ち上げた環境のため別途サインアップする必要があります。サインアップしてサインイン後にNDA DEMO (KALEIDO)を検索してください。kaleidoで立ち上げたOpenLaw環境のみに存在するNDA(Non-Disclosure Agreement)のサンプルです。英語のサンプルですが、日本語のテンプレートを作成することは容易です。

NDA DEMO

契約書に必要な項目を入力し、『Send Contract』をクリックして契約書を双方へと送付します。

NDA DEMO (KALEIDO)

チュートリアルと同様にメールに文書がpdf添付されて電子署名するように促されます。双方が電子署名するとスマートコントラクトや電子署名はkaleido上のgeth/PoAのEthereum上へ記録されます。kaleidoのブロックエクスプローラで実際にコントラクトや電子署名のトランザクションを確認できます。

Block Explorer on kaleido

日本国の法律や法規制に照らし合わせた場合に、電子署名の妥当性やブロックチェーンに対する記録の有効性が不明瞭ですが、今後は(というより既に)このような電子的手法が標準となっていくと考えられます。

以上、OpenLaw.ioおよびOpenlawをkaleido上へ統合するチュートリアルのご紹介でした。

まとめ

  • xTechの文脈の中でリーガルテックは重要な位置を占めており、一般社団法人LegalTech協会が発足され、日本においても動きが加速している
  • ブロックチェーンベースのプロトコル『Openlaw』によって法的文書の作成や実行をブロックチェーン上で効率的に行うことができる
  • Openlawではスマートコントラクトや電子署名をすべてブロックチェーン上へ記録することができる(OpenLaw.ioではRinkebyテストネット、kaleidoではプライベートおよびコンソーシアムネットワークとなる)
  • Openlawでの法的文書の作成には簡単なマークアップ言語利用可能である
  • 用途に応じてパブリックネットワーク(メインネット、テストネット)やプライベートネットワーク(コンソーシアム型含む)を選べる

Reference

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法律×ブロックチェーン ~OpenLaw on kaleido~ was originally published in Blockchain Engineer Blog on Medium, where people are continuing the conversation by highlighting and responding to this story.

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